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井戸考
1
井戸が私の暮らしから遠く離れて、その存在をすっかり忘れてしまっていた頃。
私は再び井戸と出会うことになる。
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2007年の春。
台東区谷中の大きなシベリア杉のあるY字に分かれた路地。
いつもは左の道を通って家へと向かっていくのだが、その日は「いつもと違う道」「より細い道」を選んで谷中を探検してみたくなったのだ。
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車も通れない幅。家々の間から見える空の青、庭木の緑、それに板塀の茶と白壁。
目の高さに窓があり暮らしの息遣いまで聞こえて来そうだ。
初めて見る景色に胸を高鳴らせながら進むと、道にはなにやら白く線が描かれていた。
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蝋石だ。子供の頃に道に描いて遊んだ記憶があるが、ここにはまだ使う子供がいるのか。
描かれた線はちょうど線路のような形を成している。私は折角の谷中探検を楽しむため辿ってみる事にした。
長い、長い。路地曲がってその一本突き当りまで・・・かと思いきや、また左に曲がってどんどんと続く。
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昭和の時代に飛び込んだような不思議な感覚で蝋石で描かれた線路を辿る。
再び右へ、すると左手に大きな木。その先を見ると視界の先は道が途切れている。
「おや…、階段だ」
谷中では坂は多いが階段は少ないので少々驚きながら下ると、そこにはトタン屋根の雨よけ小屋と静かに佇む青い井戸ポンプがあった…!
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谷中の奥地で発見したこの井戸ポンプが、私を再び井戸に引き合わせてくれた。
井戸ポンプなんてものは、田舎にわずかばかり残されている前時代的遺物だと思っていた私は、
東京の区部にしかも井戸小屋付きのものが残っているとは思ってもみなかった。
この場所は、私が通っていた高校のすぐそばであり、3年間毎日のように通っていた土地だった。
「私が気づいていないだけで、このあたりには井戸がまだ残っているのでは?探さねば!」
と、なにやら使命感に燃え井戸が残っていそうな場所を検討し始めたのであった。
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